自己決定理論

判断-枠組[法則]

「やらされる」を「やりたい」へ、
心理的変化が成長と満足感を高める。

自身が自ら選んだタスクに取り組むとき、満足度は高くなる傾向がある。
これは、他人に決められたタスクよりも、自分で選択したタスクのほうが、より大きな心理的満足感をもたらすからで、人が安心感や充実感を得るために、自身の状況をコントロールしたいと感じる心理傾向。

人が「やる気」を持続できる理由

私たちは、どのようなときに「やる気」を感じ、行動を続けられるだろうか?
自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT) は、人が主体的に成長し、長期的にモチベーションを維持するための鍵を解明する理論。
この理論によると、「他人からやらされる」(外発的動機)を、「自分がやりたいからやる」(内発的動機)へと変えていくことが重要 だとされている。
また、人が本当の意味で「やる気」を持ち続けるためには、次の3つの基本的な心理的欲求が満たされることが必要。

① 自律性(Autonomy)

「自分で選び、決めることができる」という感覚
■ポイント
●強制や命令ではなく、本人が主体的に行動できることが大切
●「やらされている」と感じると、やる気が低下する
●行動の選択肢を増やし、自由度を持たせることが重要
■効果
●自分で決めたことには、より積極的に取り組める
●継続的な行動につながる
■例
●学習:「自分のペースで勉強する」「使う教材を選べる」
●仕事:「どのように業務を進めるかを自分で決める」

② 有能感(Competence)

「自分はできる!」という感覚
■ポイント
●小さな成功体験を積むことで、「できる」という実感が生まれる
●適度な挑戦を通じて、成長を感じることが重要
●具体的なフィードバックを受けることで、自信がつく
■効果
●達成感がやる気を高め、さらなる挑戦意欲につながる
●逆に、失敗が続くと「どうせ無理」と感じ、モチベーションが低下
■例
●学習:「テストで少しずつ点数が上がる」「スキルを習得し成長を実感」
●仕事:「練習を重ねることで技術が向上する」

③ 関係性(Relatedness)

「人とのつながりを感じること」
■ポイント
●他者との関わりを通じて、安心感や共感を得られるとやる気が高まる
●仲間と協力できる環境を作ることが重要
●孤立するとモチベーションが下がりやすい
■効果
●周囲からのサポートがあると、行動を継続しやすい
●仲間との関係が、やる気を支える土台となる
■例
●学習:「友達と一緒に勉強する」「グループワークで協力する」
●仕事:「チームで協力してプロジェクトを進める」

「ごほうび」や「罰」だけではダメ?

「テストで100点を取ったらお小遣いをあげる」「宿題をやらなかったらゲーム禁止」
このような 「ごほうび」や「罰」だけに頼る方法(外発的動機)」は、短期的には効果がある ものの、持続的なやる気にはつながりにくいことが指摘されている。では、どうすればよいのか?

「自律性」「有能感」「関係性」の3つが満たされることで…
・学習意欲の向上
・仕事のモチベーション強化
・健康行動の維持

など、持続的な成長や幸福感の向上に大きく貢献する。
外発的な報酬や罰だけでは、短期的な成果にとどまり、持続的な動機づけにはならないことが指摘されている。

どんな場面で活かせるのか?

自己決定理論の考え方は、教育・ビジネス・スポーツ・健康行動 など、さまざまな場面で活用できます。

①教育への応用:学ぶことを「楽しい!」と感じられる環境づくり

■どうすれば?
●生徒に選択肢を与える(自律性):「学習内容や教材を選べる」
●小さな成功体験を積ませる(有能感):「テストの目標点を段階的に設定」
●協力型学習を取り入れる(関係性):「グループワークやペア学習」
■効果
●「やらされる勉強」ではなく、「学ぶことが楽しい!」と感じるようになる
●長期的に学習意欲を維持できる
■例
●「生徒がテーマを決めて自主研究をする」

②ビジネス・マネジメントへの応用:やる気のある職場をつくる

■どうすれば?
●裁量を持たせる(自律性):「自由度のある働き方」
●スキルアップの機会を提供(有能感):「研修や成長のための支援」
●チームワークを強化(関係性):「協力しやすい職場環境を作る」
■効果
●生産性の向上、離職率の低下、職場満足度の向上
■例
●「社員が自分で仕事の進め方を決められる環境」

③スポーツ・運動の継続:楽しく続けるコツ

■どうすれば?
●個人に合った目標を設定(自律性):「自分のペースでトレーニング」
●成長を実感できる仕組みを作る(有能感):「練習の成果が見えるようにする」
●仲間との一体感を高める(関係性):「チームで目標を共有」
■効果
●継続的なトレーニングが可能に
■例
●「成功体験を積み重ねる」「仲間と一緒に練習する」

④健康行動(ダイエット・禁煙など):長続きする習慣づくり

■どうすれば?
●自分のペースで取り組めるようにする(自律性):「無理のない計画を立てる」
●成果を記録し、達成感を得る(有能感):「運動や食事管理の記録をつける」
●サポートグループを作る(関係性):「仲間と励まし合う」
■効果
●長期的に健康行動を継続しやすくなる
■例
●「運動習慣を続けるために、友人と一緒にジムへ行く」

大切なのは「環境づくり」!

やる気を引き出すには、「がんばれ!」と声をかけるだけでは不十分で、環境を整え、「やりたい!」と思える状況をつくることが大切。

ちなみに、動機づけは「内発的 vs. 外発的」だけではない!やる気(動機づけ)は、単純に「自分の意思でやる」か「外からの圧力でやる」かの二択ではなく、動機づけを連続的なスペクトラム(Self-Determination Continuum) として捉えるとわかりやすい。
特に、外発的動機(外からの理由で動く)も、どの程度「自分のもの」として受け入れているかによって違いがあるのがポイント。

動機づけスペクトラムとは?

以下のように、動機づけは 「どれくらい自律的か?」 によって段階的に変化する。
▶ 左側(コントロールが強い):「やらされている感」が強く、持続しにくい
▶ 右側(自律的):「自分で決めている感覚」が強く、長続きしやすい

■ポイント
外発的動機も「内面化」されると強くなる!
外発的動機は、「やらされている」状態から、次第に「自分ごと」として受け入れられるようになる。このプロセスを 「内面化(Internalization)」 と呼び、動機づけは固定的なものではなく、環境や経験によって変化するもの。特に、行動の自律性を高めることで、より持続的な動機づけにつながる。
なぜ「統合的調整」に近づくと良いのか?
●長期的に行動を続けやすい!
●「やらなきゃ」ではなく「やりたい」に変わる!
と、動機づけは固定されたものではなく、環境や経験によって変化し、特に「自律性」を高めることで、より持続的なモチベーションにつながる。

自己決定理論ー「やらされる」を「やりたい」へ、心理的変化が成長と満足感を高める。

具体例

  • 進捗状況を可視化することで、自分のペースで進められるようにする。

  • 複数の選択パスを提供することで、ユーザー主導のモチベーションで自由に選択できる。

  • 顧客の意見を製品やサービスの改善に反映させることで、顧客との信頼感や一体感が増す。

提唱者・発祥エピソード

アメリカの心理学者エドワード・L・デシ氏とリチャード・M・ライアン氏は、1975年発表した書籍「人間の行動における本質的動機付けと自己決定」(原題:Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior)の中で、すべての人には基本的に3つの「心理的欲求」が動機付けになるという「自己決定理論」を提唱した。

参考文献・参考サイト

モチベーションを理論化した「自己決定理論」とは?
https://coaching-guide.jp/column/jikoketteiriron/

コーチングガイド

自律性バイアス
https://uxdaystokyo.com/articles/glossary/autonomybias/

UX TIMES

自己決定理論
https://core-net.net/keywords/kw022/

コアネット教育総合研究所

UXデザインにおける自律性・関係性・有能性
https://u-site.jp/alertbox/autonomy-relatedness-competence

ニールセン博士のAlertbox

自己決定理論とは?自己決定理論の3つの欲求や下位理論をわかりやすく解説
https://psycho-psycho.com/self-determination-theory/

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香西 睦

論理的で客観的なデザイン理論と、ユーザーの視点に立った情報デザインは、Webサイトの課題を見極め、わかりやすいインタフェースを実現!

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香西 睦

「だから、そのデザインはダメなんだ。(エムディエヌコーポレーション刊) 」の著者。 論理的で客観的なデザイン理論とユーザー視点の構造設計・情報デザインを用いて、Webサイトの課題を見極め、Webサイトの性能をアップさせる利用者の目線に立ったわかりやすいインタフェースの設計で多くの企業様のお手伝いをしてきました!

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